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回想録
「今、どこにいますか?」
君が問いかける声がする。
僕は応えることができない───
「───二十三時十一分、あなたは死にました」
そう告げると相手は実に様々な様相で私を見てくる。
「本当、ですか?」と狼狽える者。
「何故ですか?」と問いかけてくる者。
「来るな!」と喚き暴れる者までいるが、今の亡者は茫然としていました。
そして、彼女は違っていました。
「私が視えるのですか?」
「……ええ」
直視して見開いた瞳に映る自分の姿が何とも言えぬほどに滑稽でした。
見えないはずの自分に向けられる視線に返す言葉もなく、どのくらい覗き込んでいたのでしょう。
それが自分の姿であると気付くのに時間を要するほど、私は自分であるのか気になって見ていたほどです。
「どうして…」
その震える声に触発されて、手元にある名簿を落としそうになりながら確認をしたから間違いではありません。
白いカードの中に彼女の名前は、ありませんでした。
名の載っていない者にこの姿を見られるなど、あってはならない、有り得ない事だと思っていました。
「今宵のことは夢です。次に目が覚めた時、あなたは何も記憶してはいないで……」
「死なないの?」
「え?」
「私、死ねないの?」
規則通り事故処理を施そうと焦る私に、縋るような目を向けてきます。
「……ええ、今夜は」
そう答えるのが私たちのセオリーです。
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