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続けられる言葉を遮ってしまいました。
「今宵は、月が見えませんね」
陰る彼女の顔が空を見上げました。
その横顔に、また、苦しさを感じました。
「こんな夜だから、会えたのね」
そう呟く声は夜風に乗って私の耳に届きました。
月があろうとなかろうと、如何なる時間であっても私たちは働きます。
人がその血を絶やさないうちは、その存在がある限りは私たちに休息はないでしょう。
彼女はゆっくりと、ごく自然にそうであるかのように私の隣に並びました。
それを私もそうであるかのように受け止めました。
そっと伸ばしてきた指先に私の温もりなど伝わらないことに、彼女は悲しみを感じたのでしょうか。
私が彼女に与えられるものは何もありません。
何故、私は彼女に会っているのでしょう。
何故、私は彼女の悲しみに苦しさを味わうのでしょう。
並ぶ彼女が私の手を頬に押し当ててほんの少し震えました。
「私を迎えに来るのは……あなたですか?」
囁きのようなその問いかけにははっきりとした答えがありました。
「いいえ、それは分かりません。それを決めるのは私ではありません」
冷えきった手のひらに彼女の温もりが伝わります。
だけれど、彼女は何かを感じたのでしょうか。
小さく震えながらゆっくりと、そっと私の手を離して潤む瞳で見上げてきました。
近くで見つめるその揺れる瞳には、やはり私が映っていました。
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