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2.蘇る記憶
式場に併設された衣装部屋で、紫に透けたウェディングドレスを身にまといながら、ふと疑問を抱いた。
──私は、こんな姿だっただろうか?
大きな鏡に、魔道具のペンダントをつけた私が映っている。
いつまでも変化のないきめ細やかな肌と、ヴェールの下から覗くさらさらとした茶髪。
ヒューマンとは異なる、長い耳……。
私はエルフの魔女……だったはずだ。
「お似合いですよ、サーシャ様」
「まったくだ。明日はきっと、素晴らしい式になる。君と夫婦になるのが楽しみだよ、サーシャ」
衣装を整えてくれたハーフエルフの女性とともに、いつの間にか背後へ立っていた男性が、鏡越しに微笑んだ。
長身で、黒いタキシードに身を包んだ人狼──シン。
狼男にありがちな、粗野な雰囲気はなく、荒っぽさよりも知性を感じさせる。彼も私と同じ魔術師だが、普段の冷静さとは違い、今は期待に満ちた目つきをしていた。
明日の夜、私の夫になる人。
彼にドレスを褒められると、私の胸に、言葉では表せないような愛おしさがこみ上げてくる。なにかもやもやとした違和感が頭を巡る中、彼との関係だけはたしかなものであるように思えた。
逆に言えば──彼との関係以外は、たしかなものではない。
違和感は、みるみるうちに大きくなっていく。
私はエルフで、彼は人狼だったか?
今は、結婚前夜のはずだった──。
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