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3.本当の私
「3回……前……?」
「そう。君は吸血鬼以外にも、不死の術を得た巫女になったり、物質的な肉体から解き放たれた思念体になったりもした。君の疑念は回を重ねるごとに具体性を増し──ようやく、ここまで来てくれたんだ」
「そんな……。じゃあ、私は今まで、いろんな世界の結婚前夜をループしてきたというの?」
私は呆気に取られ、彼の言葉を狂言だと断じてしまいそうになる。
が、彼はそういうタイプではない。中身のない発言を唾棄すべきと考えている研究者だ。
そう。魔法使いではなく、研究者。
その単語が、私の記憶をより繊細に掘り起こしてくれる。
──最後に私が人間だったのは、いつのことだろう?
これは逆説的に、私が人間であったことを示す重要なファクターだ。
私が物質的、あるいは精神的に結婚前夜をループしていることは間違いないだろう。そして、静かに嬉しげな涙を流す彼に、私を閉じ込める動機があるとは思えない。
つまり、ループの原因は私にある可能性が高いということだ。
思い出せ、私。
私はたしかに、結婚前夜を経験したことがある。
沙耶という、人間の女性として。
「そうだ……私は28歳の量子物理学者・七森沙耶だった。あなたと──慎一郎さんと一緒にカラードレスの確認をして、両親との約束があったことを思い出した。それで……」
それで、どうなったのだろう?
衣装部屋を出た後の私の記憶は、闇に包まれている。
答えてくれたのは、彼だった。
「君は……急いでいたんだ。ドレスショップから出て、約束の場所に走っていった結果──交通事故に遭い、植物状態となった」
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