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1.違和感
公爵が持つきらびやかな衣装部屋で、黒く透けたウェディングドレスを身にまといながら、ふと疑問を抱いた。
──私は、こんな姿だっただろうか?
悪魔をも映し出す特殊な鏡に、私の姿が映っている。
生気の感じられない白い肌と、ヴェールの下から覗くさらさらとした銀髪。
人を惑わすであろう、蠱惑的な赤い瞳と、口元から垣間見えている鋭い犬歯……。
私は吸血鬼……だったはずだ。
「お似合いですよ、サーシャ様」
「まったくだ。明日はきっと、素晴らしい式になる。君と夫婦になるのが楽しみだよ、サーシャ」
悪魔のメイドとともに、いつの間にか背後へ立っていた男性が、鏡越しに微笑んだ。
長身で、黒いタキシードに身を包んだ男性──シン。
吸血鬼の公爵にありがちな、高圧的な雰囲気はなく、格式よりも知性を感じさせる。私と同じ赤い瞳を有しているが、眉にかかる程度の黒髪と相まって、どこか陰を孕んだ目つきに見えた。
明日の夜、私の夫になる人。
彼にドレスを褒められると、私の胸に、言葉では表せないような愛おしさがこみ上げてくる。なにかもやもやとした違和感が頭を巡る中、彼との関係だけはたしかなものであるように思えた。
今は、結婚前夜だ──。
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