13 好きでした、さようなら

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「なんて顔するんだ。そんな顔、宮野には見せてないだろうな」 カサついた声。言い終わる頃にはすっかり怒気の滲んだそれは、初め柔らかだったことの方に寧ろ違和感を覚える。 怒りを必死に堪えようとしている。きっとそう。 真上から見下ろされ、顎をぎゅっと摘まれたせいで顔を背けられないから、視線だけをどうにか逸らした。 「初めから素直になればよかったものを」 可愛らしいリップ音付きのキス。 どうしてそんなものを。戸惑うばかりで意味がわからない。 靴さえ脱がず組み敷かれているというのに、なんとなく甘い空気を漂わせる理由だって。 開いた口からは言葉も出せなかったが、泳がせた目を恐る恐る戻してみた。すると、じっと見据えられていたのか、目と目が合った。 「振り回しやがって」 「別にそんな」 耳周りの髪に指先を滑らせた桐原が、ぐっと精悍な髭面を近付けてくる。 「宮野に、触らせてないだろうな」 「まさかっ」 「本当だな」 「本当です」 すぐそこにある目から視線を逸らすことなく答えれば、桐原の髭が頬を擽った。 熱い吐息が耳にかかる。抱きしめられていた。 「お前に触れていいのは、俺だけだ」 「っ、なに、それ……」 すぐそこで響いた低く切なげな声が、心を揺さぶってくる。 怒りなのか、歪んだ執着なのか。そうだと思い込むのはもう限界で、それでも先を知るのは怖いような気がして、でも、もう今までと同じではいられないのだと、それはわかる。 顔を上げた桐原が、再び目を合わせてきた。 「お前は俺のものだ。これ以上逃げるな」 この距離でこんなことを囁かれたらどこまでも舞い上がれそうで、それが怖い。 だけど、桐原がそれでいいと言ってくれるのなら、本当は舞い上がってみたい。 舞い上がらせて、欲しい。 「それって……」
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