13 好きでした、さようなら

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祈るように、期待していた。 桐原の目に私だけが映っている。私の目に、桐原だけが映っているように。 「……好きだ」 たった一言で、身体中が震えるほど満ち足りていくのを感じた。目尻から一筋、涙が流れていくのと同時にもう一度、好きだよ、と囁くのが聞こえた。 それでも、この上ない喜びと同時に、本当に信じていいのかという疑心も沸き起こるのは、まだ心が過去に怯えているからだろう。 「本当、ですか?」 「信じろよ」 「だって、そんなの今まで言ってくれなかったから」 嬉しさとか照れとか少しの不満とか。それらを綯交ぜると、案外幸福と似た心境なのかもしれない。 「なに?」 「好きだなんて、そんなの一度も」 言ったことも、言われたこともなかったはず。 「待て。俺は言ったぞ」 「え、いつ?」 空気中の甘さが突然薄れ始めた。 だが、そんなセリフを聞いた覚えがないせいで、ストレートに訊ねることしかできない。 「まさか、聞いてなかったのか」 私を組み敷いていた桐原が体を起こすから、それに合わせて起き上がる。 徐々に渋みの増す表情を見つめていたら、何も言えなくなってしまった。 桐原の言葉なら一つ残らず心に刻んでいたいのに、こんな肝心なことだけ抜け落ちてしまうなんて。 でも、本当に言ってくれたのか。もしかしたら、俺の女になれ、というのがそれだと勘違いしているんじゃ。
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