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「あの、俺の女とかじゃなくて、さっきみたいに言ってくれましたっけ」
ベッドの上で向かい合って紡ぐのに相応しい言葉とは思えないが、記憶にないのだから訊く他ない。
「本当に覚えてないのか」
「ほ、本当に言いました?」
目を覗き込まれたら動揺しないでもなかったが、逆に桐原の目を覗き込んで言い返した。
「ペットボトルは、案外いいらしいな」
「っ!」
忘れて欲しかった変態プレイを掘り起こされ、言葉を失した。だが、その行為中に言ったのだと、そう言いたいのは伝わってくる。
でも、そんなこと言われただろうか。
自分でも振り返らねばならない状況に転じてしまい悶える。せっかく言い返せたというのに敗北感が尋常じゃない。
とは言え、仕方ないのでよくよく思い起こしてみれば、あの時、そう囁かれたような気もしてきた。けれど、情事の最中で言われた言葉を鵜呑みにするのは危険だと、気に留めないようにしたのだったか。
どちらにせよはっきりとは思い出せない。
そんなことを脳内再生してしまったせいで顔が熱くなった。
「どのタイミングで言ったか、細かく説明してやろうか」
「しないでください」
言われなくとも既に思い出しているだろうことなんか、この赤くなった顔を見たらわかるくせに。
桐原の口元が満足そうな弧を描いているのは、絶対そのせいだ。余計に恥ずかしい。
まあ、それはさて置き、あんな時に言われた言葉を真に受けるなんてできっこないと、そうは思わないのだろうか。それこそ誰にでも言っているのかと思ったんだから。
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