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腕に抱えたジュースのパックが冷たい。
一リットルのなんか買ってしまったから歩くたび中身がタプタプ揺れて気になるし、エコバッグを持ってくるんだったな、と無駄な後悔をしてみるが、もっと真剣に悔やむべきことがあるのはわかっている。
会社の飲み会を一次会で抜けるのは毎度のこと。その足でバーに向かったのだって、初めてなんかじゃなかった。
職場では波風立てず過ごすため本音を隠しているから、早く素に戻りたかった。どうにも苛立ちが収まらなくて。
だからって飲みすぎてしまったのはいけなかったと思う。
だって、私を苛立たせるような佐久間さんの発言は初めてでもなんでもなかったのだし、もう慣れっこのはずだったから。
抑圧が過ぎてとうとう限界を迎えてしまったのだろうか。飲んで憂さを晴らせると考えたのが浅はかだったのか。
どちらにせよ、バーで職場の人間に遭遇したのは初めてで、失敗だった。
酒は飲んでも飲まれるな。
油断大敵。
なるほど、名言だ。
けれどもう遅かった。
職場で見せるような、全てにおいて控えめであろうとする自分に戻るには、あまりに飲みすぎてしまって。
微笑のフェイスガードだけでもなんとか取り付けようとしてはみたが、桐原にはどう見えたのか。
その場に戻って確認したならばきっと、酷い笑い方だったのではないだろうか。
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