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どうしても飲みたくなって、でも後でスーパーへ行くからその時にと考えたのだが、やはり今この瞬間飲みたい欲求は抑え難く、コンビニへ行ってきたところだ。
パックを開けて注ぐと、勢いが良すぎて少し零してしまった。
それを拭くより先に、コップの中身を渇いた体に流し入れる。
だが、なんとなく違和感。
酸味より甘みが勝ったリンゴジュースの味は、どうしてもどうしても飲みたいと望んでいたなんて思えないような不満足感しか私にくれなかった。
思い出したのは、カクテル数杯で簡単に酔える私の隣でカルヴァドスなんて物を涼しげに飲み干していた、あの男のこと。
その男と寝てしまった。
部長なのに。職場の、毎日顔を合わせなければならない、無視するわけにもいかない相手なのに。
「はあぁ」
ため息を掻き消すように零したジュースを布で拭い、それを水で濯ぐ。
憂鬱とは不釣り合いな、甘くて優しい香りがした。
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