4257人が本棚に入れています
本棚に追加
それにしても、あの桐原部長があんな風に女を抱くとは思いもしなかった。
普段は紳士的で、真顔は若干怖く感じないこともなかったけれど、ハンサムなのは否定しない。職場では基本笑顔多めだから怖い上司とも思っていなかったし。
背も高く、素敵で優しい、なんて噂する社員のいることも知っている。
そういった好印象の部長像が思い込まされていた虚像だったという事実は、昨夜初めて知ったのだが。
本性は俺様で、多分ドSと言って間違いないだろう。多分というのは、昨日初めて持った関係だから流石に性癖全開ではなかっただろうとの考えからだ。
よくよく思い出すようなものでもないが、行為中の桐原には確かにSっ気があった。
壁に押し付けられながらのキスも、両手を頭上に纏められてじっと見下ろされながら奥を穿たれるのも、弱いところを執拗に責められるのも、まあ、嫌じゃなかったのだけれど。
猫かぶりもいいところだ。誰かさんと同じである。
その秘密を知られてしまったわけだが、やはり言うことを聞くつもりはなかった。
こっちだって部長の秘密を握ったのだ。
つまり引き分け。
向こうも週明けまでには、おかしな事を言った、と正気にかえるだろう。
そうでなくては困る。大人なんだから、割り切ってくれないと。
空になったコップ半分までリンゴジュースを注いで、今度はゆっくりと味わってみる。
甘いけれど、やっぱりこれで十分だ。
最初のコメントを投稿しよう!