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「不束者ですが、末長く、よろしくお願いいたします」
じっと、双眸を見つめたままの返事。
「お前はっ」
そんなセリフとともに眉間の縦皺を深くした桐原が、ジャケットを脱ぎ出した。
何を、と疑問に思っていればそのジャケットで頭部を覆われ、ぐいと引き寄せられる。
そこに、桐原の精悍な顔が近付いた。
ジャケットで作られた即席の暗闇に、二人きり。
「真尋、ずっと愛しててやるから」
囁かれた不遜な愛の言葉を聞いて、堪らなくなった。
フェイスシールドでもなんでもない笑みが零れる。
その暗闇の中で、隠れてキスをした。
大の大人が二人で何をやっているんだと、そう思う冷静さもありながら、そんなものどうでもいいとしか思えなかったのが本音。
佐久間さんも宮野君も、何も言わない。
静かな祝福だと思った。
周囲はそれなりに賑やかで、こんなことをしている私たちに気づいた人たちの声も聞こえてきたけれど、それでもこの幸福な暗闇から出たくはないと、そう思うのを止められなかった。
これくらい不遜な愛しかたこそがどうやら私には丁度いいらしいと、思い知ってしまったんだもの。
本編END
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