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大きな窓に背を向ける位置にある桐原のデスクの前まで歩み寄り、椅子に座っている、今は紳士的としか言いようのない笑みを浮かべるこの男に、小首を傾げて見せる。
僅かに感じている嫌な予感は、誰にも気づかれたくはない。
「何でしょう?」
「これなんだが……ああ、ちょっとこっちへ来てくれないか」
なんだか全てがわざとらしく思えて焦る。
「はい」
それでも控えめな笑顔を絶やさないのが職場の紺野真尋である。今こそしっかり演じなければ。
「この件はどうだったか」
部長の隣に立って指差された画面に注視してみれば、何の悪ふざけか、今日の日付と終業後の時刻、それにあのバーの名前が。
アホか。こんなところで誘ってくるな、部長のくせに。と言う代わりに、一瞬だけ視線を突き刺してやった。
しかも、こんな場所じゃあ嫌だの何だの文句も言えないし、断ろうにも断れないじゃない。
それらをぐっと飲み込んで、微笑を絶やしてはいけない、と肝に命じた。私はそういうキャラなのだ。
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