4  変化なんて求めていない

4/12
前へ
/216ページ
次へ
「はい、それでしたら問題ありません」 問題は大いにあるが、ここでそれを誰かに知られるわけにはいかない、という理由でそう答えたまで。 返事を聞いた途端、桐原は鷹揚に頷いて、跡形もなくそれを消去した。 つまり、桐原にとっても知られたくはない事なのだろう。 だったら尚更こんなところで誘うべきじゃないのに。 全く面倒なことになった。 とにかく早く席に戻りたい。 こちらを見上げる気配に合わせて、部長である桐原の方へ、やはり笑顔を向ける。その奥、心の中で何と罵ろうと自由だ。 私の感情を知ってか知らずか、桐原は一瞬目を細めた。 それはちょっと、彼の上に跨った私を下から突き上げた時のような、意地の悪い、けれど冷酷なのとは違った眼差しと似ていて、そんなことを思い浮かべている自分に焦って、急いで席に戻ることにした。 「失礼します」 軽く頭を下げて背を向けた私を、桐原はどんな思いで見るのだろう。 時刻は十八時。 急な約束の時間まで、あと、一時間半。
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4256人が本棚に入れています
本棚に追加