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「はい、それでしたら問題ありません」
問題は大いにあるが、ここでそれを誰かに知られるわけにはいかない、という理由でそう答えたまで。
返事を聞いた途端、桐原は鷹揚に頷いて、跡形もなくそれを消去した。
つまり、桐原にとっても知られたくはない事なのだろう。
だったら尚更こんなところで誘うべきじゃないのに。
全く面倒なことになった。
とにかく早く席に戻りたい。
こちらを見上げる気配に合わせて、部長である桐原の方へ、やはり笑顔を向ける。その奥、心の中で何と罵ろうと自由だ。
私の感情を知ってか知らずか、桐原は一瞬目を細めた。
それはちょっと、彼の上に跨った私を下から突き上げた時のような、意地の悪い、けれど冷酷なのとは違った眼差しと似ていて、そんなことを思い浮かべている自分に焦って、急いで席に戻ることにした。
「失礼します」
軽く頭を下げて背を向けた私を、桐原はどんな思いで見るのだろう。
時刻は十八時。
急な約束の時間まで、あと、一時間半。
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