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第1話 秋雨前線と温帯低気圧がぶつかったある雨の日
向日葵はイライラしながら一時停車した。赤信号に捕まってしまったのだ。
向日葵の住まいのある沼津市西部から沼津市の中心部にある沼津駅に行くには、ルートがみっつある。北から根方街道、国道一号線、千本街道である。しかし根方街道は昔ながらの細い道路なのに交通量が異常に多く、よっぽどのことがない限り運転したくなかった。国道一号線は片道三車線の大動脈だが、信号待ちが長い上に今日のような雨の日は混む。一番スムーズに流れているのは一番南側で駿河湾沿いの千本街道だ。
そう判断して千本街道を走り始めたのに、今日に限って足止めを食っている。歯噛みしながらハンドルを叩く。しかし悪いのは信号ではない。それに止まっていたのはおそらく一分にも満たない時間だっただろう。いつになく焦っている自分の心持ちの問題だ。アクセルを踏みながら深呼吸する。それにしても信号無視をしなかった自分は偉い。自分をおだてて機嫌を取ろう。すべて終わったら冷蔵庫の冷凍室に保管しているハーゲンダッツを食べるのだ。向日葵は自分で自分を褒めるのが得意だ。
先ほどかかってきた電話の内容が脳内で何度もリピート再生される。
――ひいさん、今何したはる?
それはいつだったか大学の構内で聞いたのと同じ落ち着いた声だった。気楽な感じで、何でもない風を装って授業が終わったら合流してもいいかと尋ねてくるいつものあれと一緒だ。
今日はひどい大雨だ。秋雨前線と温帯低気圧がぶつかって空の調子が悪い。向日葵も何となくやる気が出ず、平日の昼間だというのに自宅の自室で転がっていた。
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