第1話 秋雨前線と温帯低気圧がぶつかったある雨の日

2/9
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
 慌てて起き上がり、誰が見ているわけでもないのにカーペットの上で正座をした。  ――自分っち部屋でごろごろしてるけど、何かあった?  ――ヒマなら駅まで迎えに来てほしいんやけど。  ――は? 駅? あんた今どこにいんの。  ――沼津駅の南口。 「あーっもう!」  一人なのをいいことに大きな声を出した。  また赤信号に捕まった。ハンドルを握ったまま頭を前後に振る。  もうわけがわからない。  なぜ椿(つばき)が向日葵の地元にいるのだろう。  やっと信号が動いた。視界の端に千本松原が見えるカーブを曲がった。  椿は大学を卒業するまで、すなわち半年前まで交際していた向日葵の元カレだ。大学の同期で、同じ授業を取ったことがきっかけで交流するようになった人だった。  向日葵は静岡県沼津市に生まれて十八歳までを同地で過ごした。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!