第1話 秋雨前線と温帯低気圧がぶつかったある雨の日

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 進学先に京都市の私立大学を選んだのはほぼほぼ気まぐれだ。たまたま高校の進路指導室に願書が置かれていたので記念受験をした。そして、合格した中で一番偏差値の高い大学を選んだところ、そこだった。就職はUターンで地元に戻ると決めていたので、社会勉強としてよそに移り住んで四年間だけ一人暮らしをするつもりだった。予定どおりきっかり四年を京都で過ごして、半年前に沼津に戻る。今は実家で父、母、祖母と四人で暮らしている。  一方椿は公家の家系の御曹司で、九百年の伝統を受け継ぐ身分にある。生きた歴史であり、歩く京都文化だ。聞けば京都大学を受験して落ちたので滑り止めで受けた私大で一番偏差値の高いところを選んだ結果あの大学に進学することになったという。  二人はたまたまとたまたまが合流したところにいて、神様仏様のお導きでなかったら一生縁のない相手であった。  それがどうしてか気に入られて、これまたどうしてか半同棲生活を送るようになった。しかし卒業したら進路が分かれてしまったので、半年前に京都駅のサンダーバードが見える改札口で別れを告げた。
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