第10話 それでもいいということだけは、おぼえておいてね

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第10話 それでもいいということだけは、おぼえておいてね

 岡崎サービスエリアからは母が運転することになった。そして、行きも帰りも運転していた父と九条家で大立ち回りをした兄が疲れたというので、二人を三列目シートで寝かせることにした。運転席に母が、助手席に椿が、二列目シートに向日葵と祖母が移動する。  新東名高速道路の移り変わりの少ない景色だが、祖母は流れていくライトや標識を気に入って眺めていて、向日葵も母と椿の間に見えるフロントガラスから道路の先を見つめていた。  秋分を超えた空は暮れるのが早い。まして今は西から東へ向かっている。向こうのほうはとっぷりと夜だ。家に着く頃には完全に真っ暗だろう。  不意に向日葵のスマホに電話がかかってきた。075から始まる市外局番は京都市内の固定電話だ。向日葵は恐怖で手が震えたが、椿や母に悟られないよう落ち着いて通話ボタンをスワイプした。  いざ出てみると、相手は山科のホテルのスタッフだった。チェックインが遅いが何かあったのかと聞かれてしまった。予約手続きをしたのが向日葵だったので、連絡先に向日葵の番号を入力しておいたのだ。向日葵は電話越しだというのにぺこぺこ頭を下げて謝った。
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