第11話 わたしが一生椿くんを守る

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第11話 わたしが一生椿くんを守る

 その数日後、カレンダー上は平日だが世間は引き続きシルバーウィークで、兄は有給休暇を取って九連休を作り出したためまだ実家にいる、というある日のことだ。  居間の座卓の周りに家族全員が集合した。  池谷家一同五人に見守られて、作務衣姿の椿が震える手で書類に自分の名前と実家の住所を書き込んでいく。その手は時々止まって続きを書くことをためらったが、家族全員が監視している上、父が「男ならキメろ」だの兄が「因縁を断ち切れ」だのとはやし立てるので逃げられない。向日葵ははらはらしながら黙って見ていた。椿を助けてあげたいが、ここでやめると言われたらそれはそれで困る。  向日葵は二十三年平和に生きてきたので、まさか自分の人生でおそらくもっとも大きな岐路がこんなことになるとは思っていなかった。  椿が、とうとう、妻の姓、にチェックを入れた。  男にこんなおびえさせながら婚姻届を書かせる日が来ようとは、いったい誰が予想しただろうか。 「あと判子。判子持ってきた?」 「ある……」 「大丈夫か、声が死にそうだぞ」
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