第11話 わたしが一生椿くんを守る

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 男二人が「ヒエエ」「ヒエエ」と謎の鳴き声を上げながらも無事名前を書き終えた。完成だ。母が「記念に写真撮っとこ」と言ってスマホをかざす。向日葵も慌てて「わたしも、わたしも」と言ってスマホを構える。何せ自分の婚姻届だ。一生に一枚しかない。力尽きた椿がその辺で突っ伏しているが気にせずカシャカシャと音を立てる。 「はい、婚姻届は終わりです」  そう言って母が婚姻届をスッとテーブルの上を滑らせた。  そして、次のもう一枚をスッと差し出した。 「こっちは養子縁組届です」  椿が顔を上げて「あかんあかんあかん」と叫んだ。父が椿の肩をつかんで「男に二言はないぞ」と脅した。 「うち継いでくれるんだら?」 「そんな話やったかなっ」 「俺はどうしてもお前にうちの畑と工場を譲りたいんだわ」 「言うてるけど昨日はうちのひまと結婚するなら畑と工場の面倒見ぃやて言わはったやん、何が結婚は両性の合意のみにもとづいてーや!」 「わたしと結婚するのが嫌なの!?」 「ちゃいます! ちゃいますのん僕の話を聞いて」
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