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向日葵はほっとした。彼が自分から人の集まりに顔を出そうと言ってくれるのは珍しい。
彼にとって沼津は異郷の地だ。そういう場所でも知り合いを増やしていってくれると向日葵も安心だ。いくら池谷家の人間が九条家の人間に比べてはるかに能天気で開放的とはいえ、閉じこもっているのは不健康である。会社の仲間は特に信頼がおける。みんな椿の面倒も見てくれるだろう。
「移住者の意見は貴重だからさ。最終目標はこの市に人を増やすことだもんでよ」
「そうやな、京都と違って呼ばな誰も来はらへんかもしれへんからな」
「ほんとだよ、冗談じゃないよ」
椿が溜息をつく。
「ごめんな」
「何が?」
顔を起こして彼の顔を見る。どことなく悲しげな眼をしている。
「ほんまなら結婚式するところなんやろな。親戚や友達にいっぺんに結婚したことを報告すべきや。死んだことを報告する葬式と似たようなもんやで」
「おいおい、葬式と一緒にすんなよ」
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