第12話 明日も明後日も、その次の日もさらにその次の日も晴れるよ

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 しかし彼の言うとおりだ。向日葵の場合は住まいも苗字も変わっていないため、親戚や友達に会うたびに個別に結婚したことについての複雑な経緯を説明しないといけなくなっている。一応年賀状を作って送ろうとは思うが、年始に怒濤のように電話やLINEが押し寄せる気がする。  向日葵自身は今日会社で指摘されるまで忘れていたが、二人には結婚指輪もなかった。椿は気づいているのだろうか。だが実家と縁の切れた椿には収入がないので彼が買うのは難しい。向日葵が買ってもいいけれど、その場合彼の富士山のごとく高いプライドはどうなってしまうのか。椿本人が言うまで黙っていて、言われたら気づきませんでしたととぼけようかな、などと考える。  今の椿が外に働きに出るのは難しいだろう。ただでさえ身内に勤め人がいなかった人だ。まして最近はかなり情緒不安定で、時々突然泣いたり怒ったりしていた。いつだか母が、療養、と言っていたのを思い出す。毒親の下から這い出てきた人はそういうものなのかもしれない。世の中には転地療法という言葉もあるし、この家でちやほやされているうちに癒されてくれないだろうか。
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