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(これはチャンスだ)
十五年前、喜多村にちゃんと謝れずに離れたことが今現在も尾を引いていて、なかなか女性と本気で向き合えずにいた。歴代の彼女からは面白いように「私のこと本当に好き?」と訊かれている。
誰と付き合っても喜多村を思い出し、キスしようとした時の鼓動の高鳴りと比べてしまい、上手くいかない。本当に好きなのか、自分でもよくわからなくなるのだ。
(嫌われてもしょうがない。それだけのことをした)
十五年も前のことだが、未だに嫌われるのは恐ろしかった。しかし本当は、自分が許されるか許されないかなど、どうでもいいはずだ。まずは彼女に謝罪しなければ、何も始まらないのだから。
「もうすっかり子持ちのオバサンになってるかもしれないしな」
そう考えると途端に可笑しさが込み上げる。自分が十五年も引きずっていたことを考えると、急に馬鹿馬鹿しくなる。
(でももし独身で……その上誰とも付き合っていなかったら?)
鼓動が激しくなる。まさか自分にまだ、誰かをこんなに期待する気持ちが残っているなんて。
しかし十五年の歳月は残酷だ。自分も変わってしまっただろうし、相手も変わっているだろう。それに……
「そうだ。梅原も行くんだよな……」
彼のルックスは今でも健在だ。そして今は歳相応に魅力が増している。
(またあいつに奪われるかもしれない……)
他の女子が梅原を好きになるのは構わない。でも喜多村を奪われるのだけはどうしても嫌だった。
躊躇している場合ではない。これはきっと神様がくれた、十五年前の過去をやり直す唯一のチャンスだ。喜多村はやっぱり許してくれないかもしれないけど、このまま謝らないままで過ごすよりはずっといい。
俺は明日、同窓会へ出席する。彼女に懺悔し、「好きだった」と伝えるために。そして再び、胸を張って生きていく為に――
「会場着く前に、ビール一杯ひっかけとくか」
<完>
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