18人が本棚に入れています
本棚に追加
お盆休みに入るちょうど一週間前、突然夜中に悪友から連絡があり、彼の勤め先である横浜駅周辺で一緒に飲むことになった。
「よぅ、梅原。久しぶり」
「悪いな、島崎。横浜まで呼び出して」
全国チェーンの大衆居酒屋で、先に到着していた梅原が個室席で待っていた。個室と言っても通路との境を玉のれんで仕切られているだけなので、見ようと思えば中の様子など丸見えだ。だからなのか、無駄に良くて悪目立ちする外見の梅原を見たいのか、向かいの席の女性客らがこちらをチラ見して湧き立っている。
悪友というと聞こえは悪いが、梅原は地元中学の同級生だ。俺も梅原も大学で地元を離れそのまま首都圏で就職したので、こうして二年に一度くらいのペースで一緒に飲みへ行く間柄だ。しかし昔から目立つ存在の梅原が俺にとっては目の上のたんこぶでしかなく、密かに『悪友』と呼んでいる。
「本当だよ。誘うならお前が都内まで来いよ」
「ゴメンゴメン」
湧き立つ向かい席をスルーして席に着くと、事前に注文してくれたビールジョッキで再会を乾杯する。俺が到着するのを見計らったように注文する気遣いが出来る辺りも、梅原が女にモテる=悪友たる所以だ。
前回会ったのは一昨年の暮れで、その時は二人とも偶然地元へ戻っていたので、最寄り駅前の馴染みのBarで飲んだ。それから会っていない期間を埋めるように、互いの仕事や近況話に花を咲かせる。
「ところで梅原、今日何で俺を誘ったんだ?」
「ん? あぁ…。その前に島崎って今付き合ってる子いる?」
「いたらこんな週末にお前なんかと飲んでねぇよ」
「だよな」
小気味いいほど梅原は笑う。
梅原ほどではないものの、自分にも交際歴はそれなりにある。自分で言うのもなんだが割とモテる方なので、定期的に誰かしら告白はされてきたのだ。
が、誰と付き合っても長続きはせず、ここ数年は告白された時点で断るようにしている。
「うるせぇよ。お前は?」
「一ヶ月前に彼女と別れた」
前回飲んだ時は、その彼女と一年以上の付き合いになると言っていた。一ヶ月前に別れたということは、二年半以上は付き合っていたのだろう。確か彼女は梅原と同じ会社の受付嬢だとも言っていた。受付をやるくらいだから、彼女も相当な美人のはずだ。美男美女でこのまま結婚するのかと思いきや、予想外の展開に俺はほくそ笑む。
「社内恋愛はもう懲り懲りだなぁ……」
その意見には激しく同意だった。最近安易に告白を受けなくなったのも、社内恋愛に懲りたところが大きい。
最初のコメントを投稿しよう!