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「懐かしいな、松岡が俺にかけてくるなんて」
「本当だな。中学の頃を思い出すよ。……あ、そうそう。それで電話したんだった。明後日の同窓会、島崎も行くだろ?」
「同窓会? 俺、初耳だけど」
聞けば松岡は、梅原から同窓会の知らせを受けたのだと言う。松岡の知る俺の番号が十年前のものだったので、まだ使われているか自信が無いと言ったら、『じゃあ俺から伝えるよ』と言って切ったそうだ。それがちょうど一週間前のことだ。
この時初めて、梅原が俺を飲みに誘った理由がわかった。彼はこの同窓会のことを伝えようと俺を呼んだのだ。……がしかし、結局は伝えなかった。
「でもじゃあ丁度良かったわ。そもそも俺が伝えるべきだったし。梅原から電話貰った時ちょうど仕事場が立て込んでてさ……後で島崎に連絡するの忘れそうで思わず頼んじゃったんだよな」
「お前まだ出版社で働いてんの?」
「そうそう。今雑誌の編集しててさ、忙しいんだよ」
梅原に連絡を貰った時は、何とか仕事を調整して幹事の川井に『行く』と返事したらしいが、その後トラブルが続いたらしく、同窓会には行けそうにないらしい。俺にちゃんと連絡がいっているかどうか確かめるついでに、自分の欠席も伝えて欲しくて電話をしてきたようだ。
「そういうことか」
「で、島崎は明後日どうする?」
(同窓会……か)
またドクリと心臓が嫌な音を立てた。会社はお盆休みに入るし用事も無いので、行こうと思えば行けないこともないが、元々地元へ帰ろうなどとは思っていなかった。
「明日一日考えてみるわ。松岡のことは必ず伝えておくから安心しろよ」
「悪い、頼んだわ」
この後、俺達はとりとめのない話をして電話を切った。
* * *
翌朝、気だるい体を何とか起こして、いつものように出社した。昨夜の電話で、急に明日が同窓会だと知ったせいか、なかなか寝付けなかったのだ。
満員電車に揺られながら、昨夜二つ返事で出席すると言えなかったワケを考える。それは、顔を合わせづらい相手がいるからだ。そしてそれこそが、好きだった人を未だに梅原へ話せない理由でもある。
車内に流れるアナウンスを聞き流し、人の流れに身を任せて無意識で会社の最寄り駅へ降りる。同じことを何度も繰り返していると、出勤の一連の動作はベルトコンベアーに乗っているかのようで、かえって頭の中だけは自由に物事を考えられるものだ。
都内に住み始めてからは、地元へ戻るのは気が向いた時くらいで、決してまめには帰っていない。夏は地元の方が涼しく過ごしやすいはずなのに。
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