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それは多分、あの街のどこかに彼女がいるのかと思うと、足が遠のいたからだ。そして彼女を避け続けた結果が、今現在進行形で女性との交際が長続きしない理由に繋がるのだと、最近では薄々感づいている。
『そう言えば出席の連絡した時さ、川井が得意げに「女子は多分全員出席する!」って言ってたぜ。理由は「梅原が出席するから」だってさ』
電話口で松岡はそう言っていた。俺に同窓会のことを言わなかったことから何となく予想はしていたが、やはり梅原は同窓会へ出席するのだ。
川井の言葉は大袈裟でも何でもなく、実際その通りになるだろう。当時同じクラスの女子、ひいては学年中の女子の多くが梅原に夢中だった。ルックスもさることながら、頭も良くて運動神経も抜群。芸術や文章のセンスもあり、物腰は穏やかで物静かで優しい性格とくれば、誰も太刀打ちなどできなかった。
『もしかして梅原、同窓会でも女子を独り占めしたくてお前に言わなかったのかもな』
『何でだよ。俺が行かなくてもそうなっただろ』
『バカ言うなよ。島崎だって密かにモテてただろ? 知ってんだぞ、お前ら二人ばっか下駄箱に手紙入ってたの』
中学……特に三年の終盤、もうすぐ卒業が迫っていたからなのか、蓋のない下駄箱なのにも関わらず、靴の上に女子からの手紙が置かれることがあった。梅原の比ではなかったが、俺の靴の上にもそれなりに置かれていたのを松岡は知っていたようだ。
そしてその状況こそが、今に繋がる俺のこの状況を生んだとも言えるのだが――
*
中学三年まで俺は、さほど他人に対して興味がなかった。それでもこんな俺を好きだと言ってくれる人に対してだけは、少しだけだが興味が湧く……というくらいだ。
初めて彼女を認識した時は、特に何の感情も抱いていなかった。ただ、自分の席がクラス後方の窓際にあり、そこから教壇を向くと必ず視界に入る……というだけの存在だ。
彼女の名前は喜多村要、女子の中で特に目立って可愛いというわけでもなく、ルックスは十人並みで、頭も運動神経も性格にしても、可もなく不可もなくという感じだ。
最初に気づいたのは、喜多村の耳が異常に赤くなっていたことだった。もしかして具合でも悪いのかと思ったが、そういうわけでもなく、ただそうなっている時は必ずと言っていいほど、隣の席の梅原と楽しそうに喋っていた。
(なんだ。喜多村も梅原のことが好きなのか……)
梅原と席が隣同士になって一ヶ月以上が過ぎていた。喜多村が最初からこうだったかと言えば、そうではなかった気がする。耳が真っ赤になったり、妙に隣を見つめていたり、幾度も手で顔を扇いだりし始めたのは……全て最近目につき始めた行動だった。
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