消せない罪の懺悔イヴ

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 梅原のことを好きになる女子は別に喜多村だけではないので、特に珍しいことではないのだが、そうやって一度気づいてしまうと、どんどん彼女の小さな変化が目についた。  肩まで伸びる髪のツヤが増したとか、急に花のピン止めを付けるようになったとか、唇が妙に艶やかな輝きになったとか、バニラビーンズの香りが漂うハンドクリームを頻繁に塗るようになっただとか。  そして極めつけは、十人並みに見えていた喜多村が、急に可愛く見え始めたのだ。誰と喋っていても、彼女の周りだけが何故かキラキラして見える。  人は誰かを好きになるとこんなにも変われるものなのかと、その時は驚いた。それで彼女の変化について周囲の友達にも訊いてみたが、それに気づいていたのはどうやら俺だけのようだった。  喜多村の変化の凄さに驚くと共に、そうさせたのが梅原だという事実が、俺の心にどす黒い何かをぶちまけた。梅原は既に破格の人気を誇っていたので、そういう奴なんだとこれまであまり気にもしていなかったが、この時初めて彼を疎ましいと思った。彼女があんなに可愛くなったのは全部梅原のためで、俺に向けられたものでは決してない。  でも梅原は人から好意を向けられるのが日常茶飯事なので、喜多村の変化に気づいているのは俺だけだ。この時はそう思っていた。  中学三年も半年を過ぎた頃、帰宅しようしたら下駄箱に男子生徒の人だかりが出来ていた。最近は連日のように梅原の靴箱へ誰かからの手紙が入っていたので、今回もまたそれだろうと高を括っていた。 「凄ぇよ、これ……」 「早見(はやみ)ってあれだろ? 二組の凄ぇ可愛い子だろ?」   「どうした?」と声を掛けると、その中には何故か梅原もいた。 「島崎の靴箱に、二組の早見から手紙が入ってたんだよ!」 「おい! 勝手に見んじゃねーよ」 「まぁまぁ、俺だって散々読まれてるから」  もう慣れっことばかりに、梅原は俺の肩をポンポンと叩いて宥めようとする。プライバシーなど全く無かった。元々下駄箱に蓋などついていないので、あって無いようなものかもしれないが。  手紙の内容に興奮気味の川井から乱暴にそれを奪うと、とりあえず鞄へ乱暴に突っ込む。そんな態度に興醒めしたのか、皆が靴を履き始めると梅原だけが近寄ってきて、小声で「どうすんの? 付き合うの?」と訊いてきた。 「付き合わねーよ。話したことねーもん。梅原だってそうするだろ?」 「まぁな。それに今は……ちょっと気になる子がいるしなぁ」 「誰だよ?」 「隣の席の喜多村さん」  俺は耳を疑い、もう一度梅原を見た。
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