消せない罪の懺悔イヴ

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「そんな驚く? 最近可愛くなったと思うけど」 「お前……付き合うの?」 「どうだろ? 俺まだ第一志望残ってるから、それ終わったら考えるかな」  その直後、急に重くなった足にどうやって靴を履かせたのか覚えていない。ただ、心臓の音だけがやけに大きく聞こえて、それがとても嫌だったことだけは今でも鮮明に覚えている。 *  仕事の忙しさにかまけていると、いつの間にか夜の七時を過ぎていた。休み明けまでの仕事の目途はついたので、そそくさと会社を退社する。  金曜の夜、それも明日からお盆休みが始まるというのに、誰かと一緒に飲みに行く予定もない。勿論休み中にデートの約束もない。再びベルトコンベアーへ乗るように、いつもの帰宅ルーティーンを開始する。  十五年前の中学三年のバレンタインの日、隣の梅原の靴箱に喜多村からの手紙があるのを見つけてしまった。  中には、『放課後、校庭のユーカリの木の下で待っていてください。話したいことがあります』と書かれていた。咄嗟にその手紙を握り締め、梅原にバレないようこっそり校庭へと向かった。  これはチャンスだと。この機会を逃せば、確実に俺の望まない未来が待っていると思い、焦った俺は悪魔に魂を売ったのだ。  ユーカリの木の下で待っていた喜多村は、現れたのが梅原ではなく俺だったので、酷く動揺していた。そこへ畳みかけるように俺は、『手紙は俺の靴の上にあった』と嘘をついた。  そして梅原への気持ちを黙っている代わりに、『卒業まで俺と付き合って』と提案した。しかも『誰かと付き合ってみたかった』という嘘まで添えて。  喜多村は恐らく、梅原に告白しようとしたことを卒業まで誰にも知られたくなかったのだろう。『クラスの皆に言い触らす』と脅したら、俺の提案に素直に乗った。  予想外だったのは、付き合うと言ってもコソコソしなければならないことだった。付き合っていることがクラスの人間にバレればそれはそれで厄介なので、一緒に下校したり校内で一緒にいることは出来なかった。  その代わり、休みの日には何回かデートをした。お好み焼きを食べに行ったり喫茶店でスイーツを食べたり、カラオケボックスで歌ったり遊園地で遊んだり。  しかし心の片隅ではずっと、「喜多村は俺じゃなく、本当は梅原と一緒に行きたいんだろうなぁ」とも思っていた。それでも喜多村と過ごす時間は楽しくて、あっという間に時が過ぎた。  ふと我に返ったのは、最後に遊園地へ遊びに行った帰りのことだ。バスへ乗ろうとバス停までの道を歩いていると、急に雨が降ってきて咄嗟に喜多村の手を取って走った。
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