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みていたのは
「明日はいよいよ本番ね〜!」
一足先に夕食を食べ終えた母が言った。
「ん」
「今日は早く寝るの?」
「ううん、いつも通り寝る」
母が水道の蛇口をひねった。
思ったより勢いよく水が出てきたようで、母は慌てて蛇口を逆にひねっていた。
「無理に寝ようとしたってどうせ寝れないから」
「なるほどね、一理あるわ」
寒い夜にぴったりなロールキャベツ。湯気が見えなくなった最後の一口を頬張って、私は手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした! お皿、こっち持ってきてね」
「はーい」
冬のはじめ。
雪はまだ降らない。
でも、寒い。
そんな時期に迎える、何度目かの『本番』。
「お風呂沸かしてあるから入っちゃいなさい。しっかりあったまるのよ」
いつも以上に世話をやきたがるのは何故なのか。
「はーい」
私は一つにまとめていた髪をほどいて、お風呂場へ向かった。
きつく結んでいたヘアゴムをほどく瞬間が好きなことは誰にも教えていない。
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