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『今、どこにいますか?』
妻から届くメールの一文。
私はこれが、本当に嫌だった。
残業して遅くなると連絡すれば、『何時頃に帰ってくる?』
友人と飲み会に行けば、『何時まで続くの?』
それらの連絡を無視すれば、必ずといっていいほど送られてきた文言だ。
電話で言われればまだ適当に返せるのに、妻は常にメールを使った。
文章で返すとなると不思議と構えてしまうのは、私自身が筆不精なせいもあるのかもしれない。
どちらにせよ、彼女から送られてくる問いかけに正確な返答ができることの方が稀で、いつも私は曖昧な言葉ばかりを返していたように思う。
そんなことも関係してか、私から妻にメールを送ることはほぼなかった。
用事があれば電話で済んでいたし、そもそも文字をちまちま打つという作業が好きじゃない。
妻が休日に私の知らない友人と出掛けようが、告げていた帰宅時間を過ぎようが、間違っても私から彼女の所在を確認することはなかった。
もちろんそれは、自分がされたくないことをせずにいただけだ。妻の楽しみを邪魔したくないなんて、殊勝な思いからの行動などではない。
それでも、妻からのメールが減ることはなかった。
ことあるごとに送られてくる、自分の所在を訊ねるメール。
いつしか私は、そのメールを送ってくる妻自身にも嫌気がさすようになっていた。
だから数日前、ついにその不満を妻にぶつけた。
私だって息抜きをしたいのに、そういう時に家族からメールが届くと気が削がれる。
友人との飲み会だって、帰る時間を気にして飲んだりしない。
残業も含めて仕事なのだ。
だから、いちいち連絡してくるな──と。
その時、妻は一瞬だけ何か言いたげに口を開いたけれど。
結局は、寂しげに微笑んで頷いただけだった。
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