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後
*
レイリアは目を伏せ、迎えを待っていた。
「遅いわね……」
たしかに迎えにくると言っていたのに。
真昼から娼館の前で立っていると、道行く男に変な視線を投げかけられる。
気にしないふりをして、レイリアは荷物を抱え直す。
「レイリア」
涼しい声がして、レイリアは顔を上げる。
馬車を操る男を認め、レイリアはぱっと笑顔になった。
御者席の男の隣に座り、レイリアは「遅かったわね」とむくれた。
「色々、買い込んでいたからな。あと、この腕が慣れなくて……」
つぶやいた男は、動かない左腕を見下ろしていた。
「大丈夫よ。これからは私が、あなたの左腕になってあげる」
「それは心強いな」
「さあ! ガリアに行きましょう、ルキウス。それで、時が来たら、ちゃんとお嫁さんにしてよね」
「はいはい」
ルキウスは苦笑して、右手で手綱を操る。
ガタガタと、荷馬車が動き出す。
ルキウスは死闘の末、左腕を失った。双剣使いだったので、もう双剣が使えないと思うと不安だったが、右手だけでも戦えることは戦える。
ルキウスは約束通りレイリアの所属する娼館に多額の金を支払い、レイリアを身請けした。
だが、すぐに出発とはいかなかった。ルキウスは怪我のせいで熱を出したからだ。
そのため、レイリアには一旦娼館に留まってもらっていた。
怪我がようやくマシになったところで、レイリアの娼館まで伝令を頼み、今日迎えにいくことを伝えてもらった。
迎えにいく前に、市場で旅に必要なものをあれこれ買ったのだが、それにかなり時間がかかり、レイリアを待たせてしまった。
隣で、レイリアは歌を歌っていた。故郷の歌だろうか。聴いたこともない歌なのに、懐かしく感じる。
あの夜、歌ってくれた子守歌も、そうだった。
やはり、母はガリア出身だったのかもしれない。
ルキウスは前を見すえた。まだまだ遠い、レイリアが語り聞かせてくれたガリアの緑の草原を想像してみる。
これから行く先は、どこまでも自由だった。
(了)
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