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過酷な労働を終えた後は、束の間の休息が待っている。
汚れたオーバーオールを鞄に詰め込み、僕は繁華街へと繰り出す。
ネオンが光る街は臭くて汚い。平気でゴミが散乱し、ネズミが走り回っている。それを見てもなんとも思わなくなったのは僕らがおかしいのか。
裏通りにある寂れたバーには客が数人。
テーブル席にいる二人組とカウンター席の端で飲んでいる老人、そしてそこから離れた席にいる僕だけ。
下層世界の人間にとって、これ以上の贅沢はない。安い給料を安い酒に変えるぐらいしか楽しみがないのだから。
この世界には二通りの人間がいる。
一つは僕らみたいな地を這いつくばって必死に金を稼ぐ労働者たち、いわゆる下層の人間だ。ほとんどの者たちが下層世界に属していて、人口は一億人とも言われている。金は苦労して稼ぐものだし、生活が困窮するのも当たり前。
この世界では、運命は生まれたときから決まっていると言っても過言ではない。大金を掴むのはほんのひと握りの人間だけだということ。
それが二通りあるもう片方の人間たち。
いわゆる、上層世界の人間だ。
人口は千人。これは下層の人間でも知っている常識。たった千人だけが選ばれた本当の人間であるのは間違いない。
それがどこにあるのかは知らされていないが下層世界とは違い、清掃が行き届いた豪邸に皆住んでいて汗をかくこともなく優雅に過ごしている。
時にはパーティーを開いてみんなで会食をしたり、ディベートを交わしたり。クラシックを嗜み、高級ワインを飲んでなんの不自由もない生活を送っている。
身の回りの世話はすべてアンドロイドが行なっているそうで、当の本人たちはなにもしなくても生きていけるのだ。
もちろん、そんなものは下層世界には当然のようになくて、すべて自分たち自身で行わなければいけない。それが普通だと思っているし、疑問に感じたことなどない。
毎日のようにテレビから流れるのは、上層世界の人間たちの豪華な食事や優雅な生活の姿ばかりで、それを羨むことしかできない。いいなぁ、と言いながら配管を掃除する日々。
しかし、一つだけ僕たち下層の人間が逆転できる方法がある。
それが世界抽選だ。
上層の人間が病気などで亡くなった場合、その穴埋めとして下層世界から人間が選ばれる。不思議なことだが、上層の人たちは子孫を残さないそうだ。
その理由はよくわからなかったが、僕たちのような人間にとってはチャンスでしかない。
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