『中学生、緑と葵の物語』

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 それから何日が経って、葵ちゃんからあと1週間ほどで退院できることを知らされた。  高校受験もできそうなので喜んでいた。  その時、同じ高校を受験しようと約束したんだ。  それなのに。  体調が急変して……。  葵ちゃんは亡くなってしまった。  わたしは、三日三晩何も食べずに泣き続けた。  泣くことしかできなかった。  お葬式に行くこともできなかった。 「葵ちゃんが死んじゃった」  こうつぶやいて以降、わたしは、葵ちゃんの名前を声に出して言うことをやめた。  高校は、葵ちゃんと一緒に行く約束をした学校に合格した。  でも、行くのは私一人。  となりに葵ちゃんはいない。  わたしは、歌うことを自ら封印(ふういん)した。  葵ちゃんはもういない。  わたしの歌を褒めてくれた人はもういない。  これから先もずっといない。  歌う意味がない。    楽しいはずの高校生活。  わたしはいつも窓から外を見ていた。  たまにだれもいない屋上に行って葵ちゃんのためだけに歌を歌った。  歌うたびに葵ちゃんの言ってくれた言葉を思い出していた。 『緑ちゃんの歌を上手だって言ってくれる人はかならずいるからね。  その人のことは信じてあげてね。  きっと緑ちゃんのいいお友だちになってくれるよ。  緑ちゃんの歌が上手だと言ってくれる人はみんなみんな緑ちゃんのお友だちだよ。  これからも歌い続けてみんなを元気にしてね。』  腑抜(ふぬ)けたような毎日が続いて、3年生になった。  ある日、わたしがいつものように授業を抜け出し屋上で歌っている時に、背後で男子生徒の声がした。 「中島さん」  同じクラスの三上(みかみ)伸二(しんじ)くん……の声だ。  その声は葵ちゃんの声のようにも聞こえた。 中学生、緑と葵の物語 終わり
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