『中学生、緑と葵の物語』

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 昭和62年。中学3年生の12月。葵ちゃん15歳の誕生日。  日曜日なので、わたし、中島緑をはじめ仲のいい友だち何人かと誕生会をするはずだった。  まさにその日、主役の吉川(よしかわ)(あおい)ちゃんは交通事故に()った。  歩行者信号は青で、横断歩道を渡っていた時、信号無視の車にはねられたそうだ。  その日吉川家は、家族全員が病院にいたので、葵ちゃんの様子をきくことは(はばか)られた。  夜の8時ごろ葵ちゃんのお姉さんから、うちに電話があった。  葵ちゃんは、命はとりとめたけれど意識がまだもどらないそうだ。  わたしはすぐにでもお見舞いをしたいと言ったんだけど、今は待ってくださいと言われた。  葵ちゃんの具合がわからないので余計にやきもきして心配は(つの)るばかり。    心配で心配で耐えられない。  涙が次から次へとあふれ出してくるよ。 「葵ちゃん、葵ちゃん、葵ちゃん、葵ちゃん! 昨日は、あんなに元気だったのに。  わたしが、ハッピーバースデーの歌を歌うのを、楽しみにしてくれたのに。  早く早く元気になって。お誕生会をやるんだ」  わたしはいても立ってもいられず、家中の折り紙を()き集めて鶴を折り始めた。  わたしの様子を見ていた、お母さんもすこし涙ぐみながら、折り紙を手伝ってくれた。 「緑ちゃん、葵ちゃんはきっとすぐ良くなるよ。それを信じようね」 「うん。グスン」
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