『中学生、緑と葵の物語』

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 葵ちゃんとの友だちづきあいは、その後もずっと続いた。  うれしいことに新しい友だちもできたんだ。  学年も(はや)3年生となった。  …………そして、葵ちゃんが事故に遭った。  葵ちゃんの家族からは意識が戻らないということで、お見舞いを断られていたけど、 「緑ちゃんは、葵の一番の友だちだったから、会ってあげて」  と葵ちゃんのお母さんが、わたしに連絡してくれた。  病院の葵ちゃんは個室で、静かに目を閉じていた。左腕から点滴(てんてき)で栄養をとっているそうだ。  わたしは、久しぶりに葵ちゃんの手を握った。  温かかった。  ただ、寝ているだけじゃない。  涙がボロボロと落ちて来た。 「葵ちゃん。『レベッカ』の歌全部覚えたよ。目が覚めたら歌うからね。何でもリクエストして」    それから、毎日中学校から帰ると、病院に行った。  葵ちゃんはいつも(おだ)やかな顔で寝ていた。  中学3年生は、高校進学にむけて受験勉強をしっかりしなければならない時期なんだけど。  わたしは、病院に行くことだけは欠かさなかった。  葵ちゃんに話しかけて手を握るだけの毎日だったけど、私の家族も、葵ちゃんの家族もそれを許してくれた。  受験も目前に(せま)った1月下旬のことだった。葵ちゃんの意識が戻ったと知らされた。
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