『中学生、緑と葵の物語』

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 わたしは、病院に走っていった。  面会をしてもいいと言われていたので、病室の前で呼吸を整えて、ドアを開けた。  葵ちゃんは、ベッドで上半身だけ起こして座っていた。  そして、わたしに気付いてニコリと笑った。 「緑ちゃん、来てくれたのね。ありがとう」  葵ちゃんの声だ。  葵ちゃんが普通にしゃべった。  私は葵ちゃんの手を握った。  また、なみだがボロボロ出て来た。 「葵ちゃん、よかった。目が覚めたのね」 「うん。ずっと、意識がなかったってお医者さんから聞いた。  今日はもう1月の終わりなのね。  事故に遭ったのが昨日みたい」  ベッドの(そば)に座っていた葵ちゃんのお母さんが言った。 「葵、緑ちゃんはそうやって、毎日あなたの手を握ってくれていたのよ」 「え? 毎日? 緑ちゃんが来てくれていたの」  そう言いながら、涙など見せたことのない葵ちゃんが、泣きながらわたしに抱き着いた。 「ありがとう。緑ちゃん。心配かけてごめんね」 「あやまることなんて、何もないよ。  わたしは、葵ちゃんに会えるだけで嬉しいし。  葵ちゃんの寝顔かわいかったよ」 「そう。これから、高校受験だね。  一緒に勉強してね。  それとまた今度、緑ちゃんの歌を聞かせてね」 「うん。病室で歌ったら怒られるから、外に出られるようになったら歌うね」
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