年上の貴方に、飛びっきり甘いミルクチョコレート

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そして、バレンタイン前の最後の出勤日である二月十二日。 私は、相当気合いを入れて出勤した。 はい。いつもは時間がかかるのでしませんが、今日は髪の毛を巻きました。 好きな香りのボディーローションを塗って、お化粧も念入りに致しました。 若さ!可愛さ!!あどけなさ!!! 全てを武器にしようと思って。 新しいパンプスを履いて、足元から気分を盛り上げた。 「ぃよしっ!」 普段は塗らないリップグロスを塗った。 気合い入れ過ぎ!…と口に出してからかってくるような、気安く話が出来る社員は加藤さんだけなので、誰からも指摘はされないだろう。…皆、思うとは思うけど。 部署に渡す分のチョコレートは一つの大きな紙袋にまとめ、加藤さんのだけ別の紙袋に入れた。 中は勿論、とびっきり甘いミルクチョコレート。 朝礼後、席に着く部署の皆さんに、部長から順番にチョコを渡した。 加藤さんの席には行かなかったことに、何人の社員が気が付いただろう?と思う。 その日の業務を滞りなく終わらせ、終礼後、事務所内に人がまばらになってからやっと加藤さんに声をかける。 「加藤さん!」 今日一日、気が気でなかっただろう加藤さんは、苦い顔をしてこちらを振り返った。 大丈夫ですよ、と心の中で言ってやる。流石に私も、断り辛い社内で、本命チョコだと言った上で本命なんて渡さない。 「ちょっと相談したいことがあって…。今日、良かったら飲みに行きませんか?」 断っても良いんですよ?と、心の中で少しだけ挑発的に思う自分がいた。 「いいぞ」と言われたら、やっぱり、期待してしまう。逃げても良いんですよ?と、思った。 「…………いいぞ。俺も、話したいことがある…」 「………」 腹を括ったような真剣な顔をして言われ、私はつい返事が出来なかった。 「…これだけメールさせて。すぐ、片付けるから」 「…あ、ありがとうございます。わかりました」 今更。 心臓が太鼓のように胸を打つ。 汗が出てきて、バレないように深呼吸をした。 トイレで化粧直しなどをしている間に、加藤さんは鞄の準備をしていた。 「じゃ、行くか」 「…はい」 そう言って先を行く加藤さんと、その二歩後ろを歩いている私の姿以外、事務所にはまだ数人の人がおり、「もしかしたら噂になってしまうかもしれないな」と少し、申し訳なく思った。
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