君の歌が鳴りやまない

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 本校舎からまっすぐ伸びた渡り廊下を行けば、こげ茶色の壁をした別棟に行きあたる。その一番奥には所狭しと音楽機材が詰め込まれた軽音楽部の部室があった。今日も今日とて男子高校生が四人、頭を突き合わせて音楽に没頭をしている――合間に、話題のオンラインゲームに精を出しているのだった。 「ごめん皆、なんかやばいの踏んだっ」 「は? ちょ、ふざけんな! 時限爆弾だろそれ!」 「ないってまじで! ないって! うわぁぁぁぁ」  ドーンッ! という音と共にそれぞれのスマートフォンの画面には大きくゲームオーバーの文字が表示された。横に座る人影から大きな舌打ちが聞こえる。 「ありえねぇ! あとちょっとだったんだぞ! 蓮っ!」 「わ、悪い……」 「どうしてくれんだ!」  他の二人からも気落ちしたため息が聞こえ、俺はうっと息がつまる。 「も、申し訳ございません……」  高校三年生の六月。本来なら受験生は机に向かっているところを俺たちは部室に集まり、ペンを持つ代わりに楽器を鳴らしていた。飽きもせず同じ曲を練習しているのは、来る夏休みに大舞台に参加するつもりだったからだ。大手レコード会社が主催する新人発掘コンペティション。大人は馬鹿にするかもしれないが、俺たちは本気で優勝を狙っていた。将来は音楽で食べていきたいのだ。 「蓮ってさ、歌はうまいけどゲームはド下手くそだよな」 「うぐっ」 「毎回毎回足引っ張ってさ」 「ぅっ……」 「クリア目前でゲームオーバーにされるとかどんな嫌がらせだよ」 「……」  三者三様、じっとりとこちらを見つめる。ドラムの席に座っているのが一番友人歴の長い桃城、ギターを抱えているのが葉山、背の高いベーシストは虹ヶ谷と言った。 「そのきょとん顔もムカつく。無駄にイケメンだしよ」 「わかる。ムカつくよな。歌上手いくせにイケメンとか調子乗ってる」 「ほんとそれ。禿げればいいのに」  俺はえっ、と目を見開く。 「……俺ってイケメンなの?」 「はぁっ?」  キーン!   桃城の絶叫に鼓膜が悲鳴を上げた。その天然っぷりが更にムカつくわ! と追い打ちをかけられ、俺はぽりぽりと頬をかいて首を傾げる。仲が良いとも悪いとも言えない三つ上の姉貴からは、やれ気に入らない顔だのやれ服のセンスが流行遅れだのと日夜こき下ろされているのだ。そのせいで自分の容姿に関してはかなり鈍感になっている自覚があった。 「はい、提案! 蓮、罰ゲーム!」 「はぁっ?」 「いいね」 「賛成」 「ちょっと待てっ!」  桃城が大手を叩けば葉山と虹ヶ谷が喜々として挙手のポーズを取る。どんなに強く抗議すれど彼らは聞く耳を持たない。にわかに募る嫌な予感に、自分の顔が引き攣っていくのがわかった。 「さてさて、我らが成瀬くんには何をしてもらいましょうかねぇ」  最悪だ。桃城が俺を成瀬くんと名字で呼ぶ時は良いことが起きた例がない。どうぞお手柔らかにお願いします……。  というか罰ゲームなんてやめない?
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