君の歌が鳴りやまない

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「蓮って今、彼女いるっけ?」 「……いないけど」 「あれ、別れたのか。ふーん。で? その後誰かに告白された?」 「あぁ……まぁ」  人付き合いを苦と思わない俺は、男女関係なく誰とでも仲良くすることができた。友人も多い方だ。女子から告白されることも少なくない……いや、むしろ誰かと関係を持つ時は必ずそうだった。横暴な姉を持ったおかげで異性に夢を見ることはなくなったし、恋愛にあまり期待もしなくなった。好きだと言われればとりあえず付き合ってみる。そしてたいてい最後の形は決まっている。 「私と音楽どっちが大事なの!」  この質問に答えられなくて終わる。自分なりに彼女を大事にしようと心掛けはしても、多分俺、根本的に色恋に向いてないんだろうな。 「だめだぞ、オーケーするなよ? どうせ振られるんだから」 「うっ……そ、そうですね……」 「はははっ」  葉山はギターを置くとパイプ椅子に逆向きにまたがって体を揺らし、面白そうに俺と桃城のやり取りを眺めた。 「決めた。蓮、お前、男に告白しろ」  ……は?  「ちょっ、まっ、待った。何だって?」 「だから、男に告白」 「……バカじゃないの?」  桃城のきりりとした眉毛が釣り上がる。 「うるせぇ拒否権なし! お前はなぁ、蓮、 男に告白して、全女子から幻滅されろ!」  虹ヶ谷が吹き出した。腹を抱えて笑っている。勘弁してくれ。俺は全然笑えない。 「冗談きついって……」 「いいか。真のボーカルはな、年齢も性別も関係なく虜にできる。お前もやってみろ」 「それっぽく言いやがって。話が違うだろ。なぁこれ、相手にも迷惑かかんじゃん。やめようぜ、桃城」 「迷惑かかんない奴ならよくね?」  すると、にたにたと笑って見ているだけだった葉山が言葉を挟んだ。桃城が食いつく。 「何? そんな奴いんのかよ?」 「ほら、あいつ。えぇっと、お前らと同じクラスの」  葉山が頭を傾ける。同じクラス? 俺も首をひねる。 「いつも一人でいる、細っこい、女顔の」 「そんな奴いたっけ」  全員で眉根を寄せた。葉山が続ける。 「頭すげぇよくってさ、学年一位の」  あぁ、と俺は思い当たり、何の気なしに発言してしまった。 「満島?」 「あ、そう! 満島、満島……なんとかっていう奴」 「夏月だろ」  ガタン  物音がした。何だと思って視線をやるが、発生源はこの部屋の外のようだ。近くの空き教室あたりからだろうか。  意識を戻した桃城が感心したように俺の方を向く。 「へぇ。あいつ夏月っていうのか。お前よく知ってんな。仲いいの?」 「いや、喋ったことない」  彼の問いに俺は首を振って答えた。接点はない。だけれども印象深いことがあった。 「夏の月って書くんだよ。それでなつきって読ませる。いいな、と思って覚えてた」 「ふぅん。なるほどな。で、葉山? なんで満島だったら迷惑じゃないわけ?」 「あぁ」  それがさ! そう言って葉山は続ける。童顔が一層幼く見えた。
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