君の歌が鳴りやまない

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「あいつ、男が好きなんだって。前どっかで噂になってた」 「男! え、まじで?」 「うーん、そりゃ事実かどうかはわからんけど。でももしそうだとしたら」  葉山はぴたっと動きを止めてから俺ににやりと笑いかける。 「成瀬に告白されてみろ。嬉しいに決まってるだろ」 「だから俺は嫌だって」 「よし、決まり! 満島でいこう、蓮」  俺は桃城を睨んで、反駁した。 「ふざけんな! 満島だって誰でもいいわけじゃないだろ! 人の気持ちを考えろ!」  カタン 「はぁ? でもお前、他に好きな子でもいるのか」 「……いないけど、そういうことじゃなくて」 「じゃあ問題ねぇじゃん」  だから大ありだ、バカヤロー。 「好きでもないのに告白なんかできるか! それに俺が好きなのは女子だ!」  満島がどうってわけではない。同性愛をとやかく言いたいわけでもない。単に俺の恋愛対象が女性だってだけの話だ。  嫌だ。再びそう言おうと口を開けた時だった。  バタンッ  勢いよくドアが開け放たれる。一同がぎょっとして、いきなり現れた人物を振り返り見た。 「鍋内先生!」 「君たち」  そこにいたのはフレームレスの眼鏡に白衣を身に着けた、神経質で有名な物理教師だった。うっすら汗が滲む額には青筋が立っている。どうしたのだろう。 「先生……?」 「時計を見ろ! 何時だと思っている」 「えぇっと……」  俺は腕時計に視線を落とした。午後五時五十分。いつもなら練習を切り上げて片づけを始める頃合いだ。  「最終時刻は六時だ。わかっているのか」 「……」 「なんだ君は。何か言いたいことでも?」 「……いえ」  まだあと十分あるのに、と桃城の表情が雄弁に語っている。俺はすみませんと小さく謝り手早く荷物をまとめ、桃城のことを促した。たかが十分。先生を敵に回すこともなかろう。 「今後はもっと言動に注意を払いたまえ!」  バタンッ  そうして彼は嵐のように去っていった。何をそんなにぴりぴりしているのだろうか。不思議だ。 「なんか……後味悪いな」 「鍋内先生ってあんな怒り方したっけ?」 「いや、何だろうね。嫌なことでもあったんじゃないの」 「だとしても、俺たちにぶつけるなよな」  正論が飛ぶ。共感する部分はあった。理不尽は嫌いだ。 「はーあ。ま、いいや。明日は面白いことが待ってるしな。頼んだよ? な、る、せ、くん」  俺の知る限り世界一切り替えの早い男がこちらを見てにっこり微笑んだ。俺は深く息を吐く。 「桃城……お前、まじで覚えてろ」
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