君の歌が鳴りやまない

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 これ以上ない衝撃が脳天を貫く。合意があった? 信じられない。俺がまじまじと夏月を見つめると、彼は諦めたようにぽつぽつと話を始めた。俺は胸が軋むような強烈な痛みを感じながら、彼の言葉に耳を傾けた。 「僕は男の人が好きだ」 「あぁ」 「中学生までそれを一人で悩んでた。でも高一であの人に見抜かれて、別に恥じることじゃないよって、私も男性が好きだよって言ってくれた」 「でもだからって! しかもあいつ結婚してただろ!」 「うん。……このことなんだ。僕が蓮くんに知られたくなかった汚い部分」  夏月はひどく悲しそうだった。 「愛してあげるって言われて、その手を取ってしまったんだ。僕は誰でもよかったから。愛をくれるなら、立場とか法律とか、どうでもよかった」  馬鹿だよね、という小さな嘲り。パズルのピースがはまっていく。 「結局、本物の愛ってわけでもなかったし。ふふっ。笑える。気持ち悪いでしょ……あぁ、もっと気持ち悪いこと教えてあげようか」  もっと気持ち悪いこと? 「先生が中に入ってる時、僕、絶対目をつむってた」 「っ!」  俺は指が白くなるくらい強く拳を握りしめて、叫び出したい気持ちをなんとか耐えた。夏月を凝視する。湖のような瞳がほの暗く陰っている。 「するとね。空っぽの僕の世界に、いつも優しい歌が流れ込んできて、全部満たしてくれたんだ。……どう?」  どうって。 「僕は蓮くんの声を聞きながら、蓮くんに抱かれてるって想像してたんだよ」  嘘だろ。まじかよ。頭が真っ白になる。 「気持ち悪いでしょ。ごめんね。でも想像の中で僕はとても幸せだった。蓮くんになら、何されても気持ちよかった」 「何されてもって……」  何だよそれ……何なんだよそれは! 「ただ、あの日だけは上手くいかなかったんだ。聞こえてきちゃったから」 「……俺たちの、話」 「そう。僕に告白するとか、しないとか。ふふっ。僕ね、涙が止まらなかった。蓮くんが僕に好きだって言ってくれるところを勝手に思い描いて、泣きじゃくっちゃって。嘘でもよかった。僕は嬉しかったんだ。だけど……興を削がれた先生は、皆を叱りに行った。理不尽だったよね。ごめんね」 「夏月のせいじゃないだろ……ってか俺、全然知らなくて……」  一体どんな思いで夏月はあの部屋にいたのだろう。俺が能天気に音楽をやっている傍らで夏月は……夏月は……。 「よかった、ばれてなくて。蓮くんにだけは知られたくなかった。まぁ今言っちゃったけど。ねぇ、蓮くん」 「っ……何?」 「ありがとう。僕、蓮くんの歌に何度救われたかわからない。あの頃の僕は、果てしない海に一人で浮いているような感覚で生きていた。寂しかった。でもずっと、君の歌が鳴りやまなかったんだよ」 「夏月っ……」  泣きそうな顔で笑う夏月を、心の底から抱きしめたいと思った。触れたいと願った。どうすれば許されるのだろうか。いつになったら手を伸ばしてもいいのだろうか。 「蓮くん。君は太陽。僕は月。どんなに焦がれても決してそちら側には行けなかった。壁の向こうは遠かった。羨ましかった。僕もっ……ぼくも……」  悲痛な声は涙まじりになる。もうだめだ。 「夏月、許して」
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