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ぎゅっと彼を抱き寄せる。体は細かく震えていた。
「やめて……僕は汚い。蓮くんが汚れてしまう」
「いいぜ、上等だ。汚してくれよ。そうすれば俺も夏月と一緒だ」
彼がこんなにも苦しんでいたとは思わなかった。俺なんかより、ずっと。どうにかしてあげたい。どうしたらいい?
「夏月、好きだよ」
結局自分にできることは、愛を紡ぐことだけだ。切実な、愛の告白。
「どんな夏月も好きだよ」
「……っ」
「汚れてたっていい。ズルくたっていい。どんな夏月でも構わない。夏月が好きだ」
「っ……」
「俺も同じ。全っ然綺麗なんかじゃない。ほら、二人で一緒なら、怖くないだろ?」
「……でも」
「なぁ、夏月。上書きさせて」
「え?」
「キスしたい」
ぴくりと夏月の体がはねた。一旦距離を離して覗き込めば、端正な顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「本当に、キスしたくてたまらない……なんてね。大丈夫、しないよ。わかってる。夏月はもう、俺のことなんて好きとかそんなんじゃないんだよな。どうしよう、どうしたらあいつの感覚を夏月の中から消せるかな」
「そんなことないっ!」
耳まで赤くなった彼は、涙目で俺を見上げた。
「蓮くん……」
「うん」
「キス、して欲しい」
「っ……」
「キスしたい」
刹那、痛烈な激情が沸き上がる。体温が急激に上昇していく。
「……僕も蓮くんが好き……。今も。これまでも。これからも。ずっとずっと、好き」
夏月が目を閉じる。
俺は顔を寄せる。
唇が重なる。
そして俺たちは境界を失くした。
「んっ……」
あぁ、神さま。この一瞬が永遠に続けばいいのに。熱い。柔らかい。いい匂いがする。理性はもう機能していなかった。頭の芯が白く弾けてびりびりと痺れていく。今、俺は、夏月とキスをしている。それ以上に大事なことがこの世にあるとは思えなかった。角度を変えて、何度も。俺は甘い唇を堪能した。
「ん……んんぁっ」
俺の腕を掴んだ手に力が入り、ようやく自分の性急さに気付いた。夏月の目からぽろっと涙が落ちた。
「ごめん。がっつきすぎた。嫌だった?」
「嫌じゃない……嫌じゃないけど」
何だろう。蓮くんを汚してしまったとでも言うのだろうか。そんなことを言った暁にはもう一回口を塞いでやる。
「初めてだったんだ」
「は?」
夏月は俺の想像をはるかに超えてきた。
「なんか、一杯一杯になっちゃって……。嫌じゃなかったよ」
俺とのキスが、夏月の初めてのキスだった? これはまずい。まずいまずいまずい!
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