君の歌が鳴りやまない

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「っ……明日は!」 「へ?」 「大学あるよな!」 「大学? 夏休みだからないけど」 「あー……じゃ、もうこんな時間だなぁ、眠くなってきたなぁ、寝る準備しようか」 「どうしたの」 「今日は泊まってくだろ?」 「うん……。そうできればありがたいな……ねぇ」  蓮くん。夏月が俺を呼んだ。 「はい、夏月、こっち来てこっち。ベッド使ってくれ。俺はソファで寝るから」  蓮くん。二度目は強い調子だった。 「狭くて悪い。でもちゃんと清潔だ。安心して。ほら」 「蓮くん! 無視しないでよ!」  寝室のドアを開け中に入ったところで、夏月が俺を引き留めた。薄暗い室内。すぐ後ろにある気配。眼前のベッドを凝視しながら、俺は腕に伝わる夏月の感触をどうにか頭から排除できないかと躍起になった。感触だけではない。俺の体に滾るドロドロとした熱も、早く逃がさなくては大変なことになる。 「もう寝るの?」  夏月がためらいがちに聞いた。 「あぁ。だって、眠いだろ」 「……それ、どうするの」  勘弁してくれ。察したならそっとしておいてくれよ。 「ねぇ、どうするの」 「っ……適当に、処理するから。お前はもう寝ろ。ほら。これ枕。はい、こっち来て、横になれ」  ベッドに寝かせようと夏月の体を引っ張った。彼は素直に寝具へと近寄ってくれたが、俺の手を離してはくれない。状況はむしろ悪化した。ベッドに腰かける夏月が正面から俺を見上げているのだ。 「あ。目、逸らした」 「手、離せよ」 「やだ」  夏月、本当にこれ以上はやめてくれ。 「ねぇ。蓮くんのそれ、どうしたの」  どうしたも何もないだろう!  「わかるだろ、聞くなよ」 「わかんない。どうして?」  もはや俺はどうにかなりそうだった。 「っ! お前に欲情してるの! なんでそんなこと聞くわけ! 夏月だって男なんだからわかるだろ。好きな子とキスしたんだ、当然の反応だっ」 「わかんないよ!」  薄闇の中でも夏月の顔が赤いのがありありと目に映った。恥ずかしがってまで俺につっかかってくるなんて、何が望みなのだろう。早く解放されたい。じゃないと俺は夏月を襲ってしまう。 「わかんない。どうして離れていこうとするの? どうせ蓮くんは僕に変な気を遣ってるんでしょ。僕が先生にいいようにされたと思って」  夏月は俺の腰に両腕を回して、俺をぎゅっと抱きしめた。 「上書きしてくれるって言った!」 「なっ」 「全部消して、蓮くんで染めてよ! 離れていかないで。僕を抱いて」
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