君の歌が鳴りやまない

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 無理だろこんなん!  夏月の体を仰向けに組み敷いて、食らいつくようにキスをした。鍋内の痕跡を消したいどす黒い独占欲が爆ぜる。 「好きだよ」 「んっ」 「夏月、好き」 「んん……んぁっ」  好きだ、好きだ、と繰り返しながら、顔中にキスの雨を降らせた。額に、瞼に、頬に、唇の端に、あご先に。甘い匂いにくらくらする。夏月は汚れてなんていない。どこまでも綺麗で、美しい。 「触っていい?」  恥ずかしそうにこくりと頷いた彼のTシャツの裾から、俺は手を差し込んで素肌に触れた。しっとりとしていて温かい。手のひらで薄い腹をゆっくりと撫でる。へそを通過し、くびれをなぞり、脇腹へ。 「っ……」  慎ましい尖りに辿り着いた時、夏月は小さく息を飲んだ。悩まし気に眉根を寄せる姿がとてつもなく色っぽい。俺は腹の底に燻る灼熱がじわじわとこの身を焼くのを、唇を噛んで必死に耐えた。まだだ、こらえろ。俺は自分に言い聞かす。夏月を大事にしたい。優しくしたい。深く愛したい。 「舐めていい?」 「な、舐める? ……どこを? え? ほ、ほんとに?」  たまらなく切なくなった。夏月の反応はわかりやすい。されたことなどないのだろう。ろくな前戯があったかどうかさえ怪しい。俺は呻き声を上げ、突起に唇を寄せた。彼の知らない喜びを俺が与えたかった。 「んんっ」  夏月がもぞもぞと身じろぐ。感じている声が、表情が、全てが愛しかった。 「あぁ、蓮……くん」  何度も何度も舌で掬うように舐め上げる。夏月の体はどこまでも甘い。 「うぅっ」  愛しい人が俺の下で身をくねらせている。両足をすりあわせて何かを耐えている。俺は途方もなく興奮した。反対側の尖りにも顔をうずめ、卑猥な音を立てて吸い付く。夏月が子どものようにいやいやと頭を振るものだから、倒錯感に思考が吹っ飛びそうだった。 「はぁっ……」  桜色に色づいた胸の飾りから一旦頭を上げると、俺は夏月の上半身全体に口づけを落とした。そして彼の下半身へと腕を伸ばす。 「腰上げて」  夏月の腰からスウェットを引き下ろし、取り去る。互いの体が燃えるように熱い。 「蓮くん」  鎖骨に浮かぶ汗に舌を這わせた俺を夏月が呼びとめた。しなやかな白い腕が俺の首へと回る。 「蓮くん、好きだよ」 「うん……俺も好きだ」 「絶対僕の方が好き」 「どうかな。俺の方が好きだと思うけど」 「絶対絶対、僕の方が好き」 「……なんだこれ」  見つめ合って笑って、自然とキスをした。これ以上の幸せがどこにあるというのか。俺は知らない。遠回りをしたけれど、いや、遠回りをした分、腕の中の夏月が尊く思えた。 「ねぇ、蓮くん。もういいよ」 「いいって、何が」 「だから……」
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