君の歌が鳴りやまない

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「まだ頑張れる? 夏月の中も俺で満たしたい」 「っ……うん」  夏月は言ったじゃないか。行為の最中は俺に抱かれていると想像していた、と。健気すぎてこちらが泣けてくる。俺のことをそんなに好きでいてくれて、嬉しかったし悲しかった。もうそんなことはさせたくない。金輪際俺以外を受け入れさせないし、ちゃんと俺で感じて欲しい。 「ねぇ夏月。どこが気持ちいいとか、何が好きとか。夏月のして欲しいこと、全部教えて」  ティッシュペーパーで自分の手と夏月の腹を拭うと、俺はベッドの下部に付いた引き出しから必要であろう物を取り出した。準備がいいと思われるのは癪だが、俺だって想像の中で幾度となく夏月を抱いている。男同士のやり方は調べて知った。使うことなどないだろうと思っていたものがここにきて日の目を浴びようとは。 「冷たいかな」 「ううん……んっ」  夏月の左足を俺の右肩に担ぎ上げれば、彼はあられもない姿を晒す。急ぐ気持ちを俺はどうにか押し殺して、秘められたそこを湿った手で優しく触れた。慎重に、丁寧に。ゆっくりと窄まりへ指を入れる。 「熱っ」  意図せず声が出てしまう。夏月の中が反応して俺に絡みついた。 「い、言わないでよ、意地悪……」 「ごめん、つい。……痛かった? 辛い?」  夏月は首を横に振る。俺は右手を更に押し進めると共に、左手で彼の男の部分を刺激した。夏月はぎゅっとシーツを握りしめる。閉じようとする両足は俺の体に邪魔されて切なく動くだけだった。 「ねぇ、どこが気持ちいい? 言って」  俺は不安になって尋ねる。なんせ初めてだ。だが夏月は何も教えてくれない。むしろ固く目をつむるとそっぽを向いて、腕で顔を隠してしまった。どうしたのだろう? 更に不安は募る。しかしながら夏月の次の行動を見て、俺は言葉を失った。  ……噛んだのだ。彼は自分の右腕を、何かを耐えるように噛み始めた。 「夏月、もしかして、我慢してる?」 「っ……」 「声」  きっと癖なのだろう。あの男に責められている間、音を立てないように、声を出さないように、そう自分を戒めた末路なのだ。俺はやり切れなさに食いしばる。左手での愛撫を一旦やめて、夏月の腕を取った。鮮やかな赤い歯型が白に映えて眩しい。 「聞かせて」 「ん、いやっ」 「聞きたい」 「でも……」 「ここにいるのは俺だ。わかってる? もう我慢しなくていいんだよ。隠さなくていいんだよ。好きなだけ感じて、それを俺に教えてくれよ。聞かせて欲しいんだ、夏月の声」 「蓮くん……っ」  夏月の中は滑らかに動くようになってきている。指を増やす。左手は夏月の右手と繋いだままにした。
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