君の歌が鳴りやまない

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『年上の男性が苦手なのは……高校の時、妙に距離感の近い先生がいて。でも、僕が悪かったんだと思います……っ、すみません』  名門私立高校で大スキャンダル!  ショッキングな見出しが緊急特番で流れた。穏やかな休日の昼下がり、画面には俺の泣き顔。それを見た夏月がこちらを見上げ、唇を尖らせて言った。 「蓮くんの嘘つき」 「あぁそうさ。俺は嘘つきだ」  誰に何を言われようとこの行いを訂正するつもりはない。間違いではなかった。憑き物が落ちたような顔を夏月がしたから。それが俺の答えの全てだ。 「鍋内先生、逮捕されるのかな。僕にも悪いとこあったし、なんだかちょっと可哀そう」  可哀そう? 鍋内が? ふざけんな! あいつだけは絶対許さないって決めていた。 「俺の夏月に手を出した当然の報いだろ」 「……え? 今なんて?」 「だから、俺の夏月に手を出した……っておい。聞こえてるな?」 「えへ? 聞こえないなぁ、もう一回!」  かつて俺に、君の歌が鳴りやまないと言ってくれた恋人は、花が綻ぶような満面の笑みを見せて愉快そうに体を揺らした。月日が経っても変わらなかった。叶うならこの先もずっと、彼と一緒に生きていきたい。 「俺の夏月。好きだよ」  隣に座る彼を抱き寄せて、唇を奪う。 「んっ……僕も好き。僕の方が絶対好き」 「いや。俺の方が絶対好きだ……ってこれ」  同じタイミングで吹き出して額をくっつけて笑いあった。澄んだ湖には優しい色が宿っている。  ねぇ、夏月。俺の頭の中ではいつも君の笑い声が鳴りやまないよ。 ― Fin -
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