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今更気付く。至近距離で見る満島には蠱惑的な美しさがあった。フェロモンでも出ているんじゃないだろうか? 色素が薄く、葉山が女顔と形容したのも頷ける。意図せず心臓の鼓動が速まっていく。桃城め、要らないことを。
「……はぁ。うん。大したことじゃないんだけど」
「何?」
満島の瞳がまっすぐ俺を捉えた。澄んだ湖のような色が揺らめいて見えた。俺の言葉を待っている。何でもない、とはもう言えない。
「よかったら……」
「うん」
「俺と……その」
声が少し震えた。
「成瀬くんと?」
「……あの、さ。俺と、友達にならない?」
「え?」
透き通った瞳が大きく見開かれ、驚いている。ありありと。……あぁ。初めて見る顔だ。
「っと、変だよな! 俺もそれはわかってる。でも同じクラスなのに今まであんまり話したことなかったなぁって思ってさ」
気恥ずかしさを隠すため、俺は早口になった。
「今年で卒業だし、もったいないじゃん。満島がどんな奴か知りたい……んだけど、嫌なら……いいよ」
目の前の人影はやや呆然と俺を見上げた後、ぷっと小さく吹き出し、肩を揺らし始めた。俺は面食らう。満島が笑っている。
「あはは。ごめん。ちょっと予想を超えてて」
「だよな」
「まさか友達とは……ふふっ」
「んん」
くすくすと笑い続ける彼の姿に、教室にちらほらと残っていた生徒たちもびっくりしたようだった。彼の無垢な笑い声につられて俺まで楽しい気分になってくる。
「満島も笑うんだな」
「え? どうして? 僕だって笑うよ。何だと思ってたの」
「いや、ごめん。初めて見たからつい」
「そっか」
彼は目じりに涙を溜めながら、ふわりと微笑む。瞬間、悟った。
花が綻ぶとはこういうことだ。
俺は胸の奥の何かが確かに高揚するのを感じた。こんな満島は知らない。何だろう、この気持ち。むずむずして、でも温かい。
「それで、じゃあ、友達になってくれるってことで、いい?」
「うん。いいよ。僕なんかでよければ」
「っしゃ」
この時には俺の脳内から罰ゲームのことなどすっかり抜け落ちていた。満島と交友関係を結べることを素直に喜ばしく思ったし、想像していたよりもすぐ仲良くなれそうだと期待に胸を高鳴らせもした。
「あ、俺。成瀬蓮っていうの。よろしくな。 ……って、知ってたか」
「知ってるよ、もちろん」
満島はにこやかに続ける。
「成瀬くん、有名じゃん」
「え、そうなの」
「そうだよ」
俺と満島は一緒に教室を出た。教室棟の三階から階段で一階を目指す。
「それにすごい影響力を持ってる」
「影響力? 俺が?」
「皆言ってるよ。……歌、頑張ってるよね」
「あ、あぁ。歌ね。なんか恥ずかしいな」
「すごいことだよ。僕、実は成瀬くんのことすっごく応援してるんだ。ずっと前から。知らなかったでしょ」
えっ、と俺は短く声を上げた。
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