バトン

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 僕らは1位だった。  良かった、やっぱりこのチームは最高だ。  僕は走り終わって息が上がっていたにも関わらず、すぐさま智樹の方へと向かった。  僕が着く頃には、圭太と裕司も既にそこにいた。  四人が集まると、智樹が口を開いた。 「よし! 皆集まったな。じゃあ俺から、言いたいことがあるから聞いてくれ。まず……ありがとう。俺はもう走れなくなるけど、こうやって最期にリレーを皆で走れてよかった。本当に今までありがとう」  最後なんて言わないでくれ!   また走ればいいじゃないか!   そう言おうとしたが、言葉が思うように出ていかなかった。  言おうという意思はあったが、まるで何かの力が働いて話すことができなくなっているようだった。  智樹は続けた。 「それと今回の事故のことだけど、これは仕方のないことだった。俺もやるせないけど、どうしようもないことだ。だからさ……お前らもあんまり考えすぎるなよ。くよくよしてばっかいると、俺があの世からぶん殴りに来るからな。お前らは自分の人生を楽しく生きていけ。後悔ないようにな!」  智樹はにこやかに、笑顔で僕らにそう言った。 「もうすぐ時間みたいだ」  智樹の体から光りの泡のようなものが出ていっている。  泡は空中でシャボン玉のように儚く消えていく。  泡を集めないと!   智樹が消えてしまう!  そう思って、腕を動かそうとするも、動いてくれなかった。 「じゃあ、俺は先にいってるからな。お前らはゆっくり来いよな。早く来たら許さないからな。じゃあな」  そう言い残して、智樹は消えていった。  ようやく腕が動いた!   そう思った時、僕は天井に向かって腕を掲げていた。 ――夢を見ていたようだ。  起き上がって、頬へ手を持っていくと、僕の頬は涙で濡れていた。
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