バトン

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 翌朝、僕らはまた三人で集まって、葬儀のために会場へと移動した。  道中、僕が口を開いた。 「昨日車の中で、智樹が亡くなった実感湧かないって、話したと思うんだけど、覚えてる?」 「ああ、覚えてるけど……どうした?」  助手席に座っている裕司が前を向いたまま返答した。 「実感……湧いてきたんだ。昨日、夢に智樹が出てきて、俺らを励ましたりしてた。智樹のことを気にするなとか、楽しく生きろとか。そしたら、智樹が消えていった。やたらとその夢がリアルだったから、もう智樹はいないんだなって、そう思えた」  その話をすると、裕司が驚いて後部座席へ振り向いた。 「その夢って……もしかしてリレーで走ったりしてなかった?」 「え? そうだけど……なんで知ってるの?」 「俺も同じような夢を見た。智樹が消えていったのは俺ら四人が集まった後だよな?」  同じ夢を見ているなんて……そんなこと、あるのだろうか。  しかし、現にこうして夢の内容を知っているのだから、疑う余地はないのかもしれない。 「俺も見た」  圭太も運転しながら、そう話した。 「智樹はいつもあんな感じだったよな。自分の方が大変なのに、人のことばかり気にして……。でも、あいつのああいうところに救われていた気がする。あいつはさ……」  圭太の声が震えている。 「あいつはさ……どんな時でも、前向きだったよな……。そんな姿に勇気づけられてた」  バックミラー越しに見えた圭太は泣いていた。  つられて、僕もこみあげてくるものがあったが、昨夜の夢で智樹がくよくよするな、と言っていたのを思い出して、ぐっと堪えた。  会場に着き、僕らは葬儀に参列した。  式は滞りなく進んだ。  そして、火葬が行われ、僕らは智樹の親族と共に骨上げを行うこととなった。  僕らは火葬場に向かい、棺の周りを囲うように並んだ。  そして収骨していった。  その際、僕は遺骨の中に智樹の頭蓋骨らしきものを見つけた。  頭蓋骨はその一部が大きく陥没しており、その痛ましい姿は、事故がどれほど悲惨なものであったかを物語っていた。  そういえば、頭を強く打ったと聞いたな……。  痛かったよな……それなのに、お前は……。  僕の頭の中に生前の智樹の姿と、昨日の夢の中で出てきた智樹の笑顔が不意に浮かんできた。    すると、僕の目から堰(せき)を切ったように、急に涙が溢れ出した。  智樹のことを思い出すと、余計に涙が止まらなくなった。  夢の中でお前は、俺たちに楽しく、後悔のないように生きていけって言ったよな。  智樹が伝えてくれたこと忘れないよ。  だけど、今だけは許してくれ……。  火葬場にむせび泣く声だけが静かにこだましていた。
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