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気が付くと僕は、昔よく来ていた陸上競技場のトラックの上にいた。
僕はレーンの上に立っていて、他のレーンにもそれぞれ一人一レーンずつの間隔で人がいる。
辺りを見渡すと、トラック上には他にも人がいる。
それに、やたらと静かだ。
すると間もなく、閑散とした空間にアナウンスのような音声が響き渡った。
「On Your Marks」
これは……リレーだ。
今からレースが始まろうとしている。
号令と共に第一走者の人々は各々のスターティングブロックでクラウチングスタートの姿勢を取った。
そして、第一走者全員の動きが止まると、再び音声が響いた。
「Set」
バンッ!
スターターピストルの音が鳴り、第一走者は一斉に走り出した。
瞬きを数回するほどの間に、第一走者から第二走者へとバトンが繋がった。
次は僕の番だ。
きっとあいつが走ってくるはずだ。
第二走者がこちらに向かってくるにつれて、その人物が誰であるかはっきりした。
やはり、裕司だ。
裕司が風を切ってこちらに走ってきている。
裕司が近くまで来たため、僕も助走のために走り出した。
僕のスピードがトップスピードに乗り切ったころに、後方で掛け声が聞こえた。
「ハイッ!」
条件反射的に腕を地面と水平まで上げ、オーバーハンドパスでバトンを受け取った。
僕はアンカーまでバトンを繋ぐために全速力で走った。
周りの音は聞こえず、自分が走っているという感覚だけが地面からの反発で伝わってくる。
アンカーは智樹だ。
智樹も助走のために走り出し、掛け声とともに、僕はバトンを智樹へ渡した。
後は見守るだけだ。
智樹なら大丈夫だ。
走り去って行く智樹の後ろ姿を見守る。
後ろからでは誰が何着かまでは分からないが、どうやらレースは終わったようだ。
結果はすぐに電光掲示板に表示された。
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